※ソルとカイが寄りを戻すお話です。
※ほとんど木陰の君と致してます。
※でもカイ受けです。




湿気の多い夜だった。
纏わりつく空気は、静かに雨音を伝える。
とうとう降り出したらしい。
預けられた息子を置いて、近況の報告に来たのはいいが、ぐずる息子のせいで夜半になってしまったのは頂けなかった。
 仕事が終わる頃の夕刻に来て、おそらく終業が遅れるであるだろう主を待って過ごすつもりが。
 下手したら既に就寝しているかもしれない。
 そうすると報告は明日。しかも早朝となる。
 それに合わせて一晩過ごすのも起床時間を合わせるのも、正直面倒であった。
 ならば報告などせずして戻ればいいのだが、いかんせん、後味が悪いのだ。
 会えなくとも近況を聞けるだけで、満面の笑みを浮かべるようになった、父親に対して。

「……」

 ぐしゃりと髪をかく。
 本当は違うと分かっていた。
 後味が悪いとか、気の毒だとか、そんな生優しい理由など本当は持ち合わせてない。
 自分本位な理由が存在していることは分かっているが、それを認識するには少々抵抗があるのだ。
 あの頃から随分と立場も変わってしまっている。
 思考を追い出すように嘆息を吐き、足早に主のいるであろう部屋に向かう。




「あら、こんばんは」

 嫁にあたる木陰の君は、あたかも道端で出くわしたかのように朗らかな笑みを寄越した。
 その下にいる夫は、訪問者に気づいていなかったのであろう、びくりと体をこわばらせたというのに。

「ディズィーさん、あのっ」
「だめです」

 混乱しながら体裁を整えようとする夫の腕を、妻は簡単にシーツの上に縫いとめた。
 妻の長い髪が流れ落ちて、はだけた素肌をかすめると、またもや体が強張った。
 何とか自分の上に跨ぐ妻を下ろそうと、足をばたつかせている。
 既に下肢には何も纏っていないらしく、いつもきている長いローブがめくれあがって、相変わらず白い足が惜しみなくさらされただけとなる。
 本人もそれに気づいたのか、しかし整えることが出来ずに、赤面するばかりだ。
 ノックせずに入ったのは慣例だが、まさか夜の営みの最中にお邪魔してしまうとは、いくらなんでも気まずかった。

「抱かれてんのかよ」
「違う!」

 すぐさま反論が返ってきたが、あまりに説得力がない。
 妻はほとんど着崩していないのに対して、夫の方は着ているとは言い難いほど乱れていた。
 しかも随分余裕がない表情だ。辛うじて理性を取り戻しているようだが、陥落させるのは容易いほどの脆さだ。

「あら、知らなかったんですか?」
「っ!」

 木陰の君の尻尾が、細いく白い片足を絡め捕った。
 それだけでも刺激になるのか、息を詰めている。
 白さをより一層際立たせるそれは、挑発するように足を持ち上げた。

「この人、抱くより抱かれる方が好きなんですよ?」
「ちが…」

 嫁相手には反論も弱弱しいのか、それとも状況があまりにも不利だからか。

「うそつき」

 いつの間にそんな艶を含んだ表情をするようになったのか。
 弧を描いた唇は、徐に胸板へ。
 そして胸の頂きに吸い付く。角度を変えて口づけ、交互に吸い付いた。
 その間にも巻きついた尻尾は、愛撫のようにするするとふくらはぎを撫でる。

「ウンディーネ」

 唇を離さず、片方の羽を呼びかける。
 命令がなくとも何をするのかわかっているらしく、羽は人の形をしたかと思うと、木陰の君に変わって夫の腕をシーツに縫い付けた。
 これで片手が空いた為、今度は爪で胸の頂きを抓まれる。くいくいと何度か抓んだまま引っ張り上げる。皮膚に余りのない身体だ。少し乱暴にも思えた。

「…ぁぅ」

 決壊しそうな理性をなんとかつなぎとめているらしく、拘束されていない片足が辛うじて抵抗を見せていた。

「随分、良さそうだな?」
「お陰様で?」

 その言葉が何を指すのかは、あまり深く考えたくない所だ。
 しかし木陰の君は追及するかのように、言葉を連ねた。

「でも、ソルさんが来てからですよ、こんなに感じてるの?ね?」
「ぁ」

 言葉尻と一緒に胸の頂きを弾けば、反論の為開いていた口から明らかな嬌声が漏れる。

「妬けちゃう」

 いつの間にか、もう片手も羽によって自由にした木陰の君は、両手で無遠慮に胸の愛撫を始めた。
 乱暴に摘み上げ、平で揉むように刺激する。時折指の間から覗く乳頭を舐めて吸う。
 お仕置きだと言わんばかりに、執拗にそこばかりを責め立てた。
 堪えられなくなってきたのか、漏れる嬌声が耳に悪い。

「雨の日は」

 存在を忘れられているのではと疑い始めた折に、タイミングよく開口する。

「特に寂しいみたいで、でも一人でしようとするんですよ、この人」

 心当たりでも?と視線が問いかけてくる。
 残念ながら山ほど思い当たるので、回答はしない。

「こことか」

 といって、尻尾が足を開放しないまま、めくり上がったローブの中に先端を差し入れる。
 ここ。とか。

「ひくついて、すごいんです」

 ここ。と暗に示している所をつっついているのが、全貌がみえなくともわかる。
 白い足は、もう抵抗らしい抵抗をしていない。ただ与えられる刺激に震えていた。

「だからそういう日は、挿れてあげます。そしたらね、すごいんですよ?」

 知ってるでしょう?

「ゃ、めて」

 弱弱しく声が上がり、妻は眼を瞠って夫を見た。

「あら、まだ理性があったんですね」

 弱弱しく抗議する夫に、妻は優しく微笑んだ。

「ごめんなさい?そろそろ逝きたいでしょ?」
「ふ、あっ!」
「ソルさんが来て、逝きそびれちゃったから」

 尻尾の動きが先程とは違う。

「や、それ嫌!」

 生理的か感情的か分からない涙が頬を伝う。

「嫌?」
「やー、いやー!」

 ぐずぐずになった理性で言葉をかき集めても、舌足らずで幼稚な言葉にしかなっていない。
 普段の姿からは、とても想像がつかない姿だろう。
 快楽だけでない。混乱と羞恥が手伝ってこその醜態だ。

「じゃあ、責任とってもらおうか?」
「?」

 言葉の意味が分かる前に、木陰の君は腰を上げた。

「責任、取ってくれますよね?」

 それは見物に徹していた男に対して向けられた物。

「…家内が夫の浮気を許すのかよ?」
「いいんです。カイさんはたくさん愛されなきゃいけない人なんですから」

 それにこんなにしたのは、ソルさんでしょう?

   さんざん夫に不貞な行為をしていたとは思えない程、通常通りの話ぶりだ。

「そうですね、だったら見てようかな」
「あ?」
「ちゃんと気持ちよくしてくれるか」

 そういって、椅子を引き寄せて腰かけた。
 これは退くつもりはないようだ。
 かといって渋れば、またとんでもないことを言いかねない。
 ベッドに残された夫をみれば、息を整えながら、茫然とこちらを見ている。

「そる?」

 理性が戻るにつれ、そこには怯えが含まれるだろう。
 このような不貞を、許せるような性格ではないのだ。

「…たく、考えすぎなんだよ、てめぇは」
「ソル?」

 ベッドに乗り上げれば、言葉をとらえきれず状況が分かっていなかった彼でも、何が行われるのかわかったのだろう。
 逃げる腰を抱き寄せる。

「ソル!」
「考えんな」

 耳元でささやけばびくりと震えた。
 相変わらず耳が弱いのは相変わらずのようだ。
 早く理性を手放してしまえば、苦しむ時間も短いだろうに。

「カイ」
「ぁ」

 オーバーフロー状態の彼は、もう何がなんだかわかっていないのだろう。
 何に対して泣いているのかわかってもない。
 まるで壊れかけだ。
 口づけて、無理矢理舌を差し入れた。
 久しぶりのキスは、苦々しかった。








+++++++++++++++++++++


どうでもいい後日談。(反転)

「カイさんって、ソルさんの声好きなんですね」
「あ?」
「すごく感じてたから」
「耳が弱いだけだろ」
「あら、私の時はそんなに感じないんですよ?」
「…」
「だから、耳が弱いんじゃなくて、ソルさんの声に弱いんですよ」
「……」

 夫は寝たふりをしつつ赤面している。