ある朝の鉢合わせ。




「珍しいな」

そう呟いたのはどちらが先だったか。
朝一番のファーストフード店で。
通りには出勤の人通りがちらほら出来始めるくらいの時間帯。
今日は天気もいいのでまさに爽やかなカフェテラスに二人は鉢合わせたのだ。

「換金か?」

爽やかなカフェテラスで新聞を広げて、食後の紅茶を飲んでいる青年は、違和感なくそこに収まっていた。いや寧ろこの空気の花といってもいいかもしれない。
細く柔らかな金糸の髪は朝日を柔らかく照り返し、その瞳は鮮やかに煌めいた。
店の近くを通る者の視線を引き、今日は通常より客入りがいい。

「…ファーストフードとは珍しいじゃねぇか」

毛嫌いしていそうな潔癖なくせに。
一方の男は、この朝の爽やかさから浮き立って違和感がある。
出来れば室内の席に座りたかったが、生憎満席で、仕方なくテラスに来たらこれである。
明らかに賞金稼ぎといった雰囲気。着古しているであろう服はくたくたで、髪も流れるままだ。
徹夜明けなのか、顔には疲れが滲んでいるようで、ヘッドギアの影がより一層物騒だ。

「昨日帰りが遅くなって買い出しに行けなかったからな」

新聞を畳みながら男に理由を告げる。
こんな相対的な二人が視界に収まる光景は周囲を身構えさせた。

「お前がこんな時間にこんな所にいると、民間人を恐がらせるんだが」

間髪入れず舌打ちが聞こえた。
本人にも自覚がある。気まずい上でも尚この店にこんな時間帯から来たのは、その手に収まっている珈琲が目当てのようだった。

「宿は?」

「さっき着いたんだよ」

不機嫌そうに言った。

「食べ終わったんだったら席空けろ」

別に相席でも構わないのに、とこっそりカイは思う。カイの向かいの席は空席だ。
しかしソルが言っていることも最もなので、あえて何も言わずトレーを持ち上げる。
ふと新聞を男に差し出す。
ソルは訝しげにそれを見ていたが、手を伸ばした。
掴みそうな所で掴ませまいと新聞を持ち上げた。
ちゃりと金属音がする。

「…おい」

この男が今の金属音に気づかない訳がない。

「買い出し、代わりにしてくれるなら」

突然の交換条件。
訝しげに表情を歪めればより物騒で、なのにそれを柔らかな微笑で受け流す。

「本気で仕合の方がいいか?」

言い切らないうちに新聞は奪い盗られた。
器用な手付きで忍ばせた鍵を見られないうちに懐にしまうと、新聞を広げどかりと席を占領する。
まるで視線から逃れるように遮られてしまって、ほんのり笑いが零れる。
目敏い男はそれすら非難の視線を寄越す。

わざとらしく肩をすくめて見せて、青年は背中を向けた。
仕事場に向かう足取りは、いつもより少しリズミカルだった。



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出張先の朝マック中に思いついたネタ。
あまり居なさそうな場所と時間帯でたまたま鉢合わせ。


2012.9.29